「真夏の陽射」
プロローグ
今期最大といわれた超大型台風は、運良く直撃を免れ、梅雨のかび臭い空気を一掃した。
絵の具をほんのすこしだけ水に溶かしたような、透明な空。
未だ湿り気のある、洗いたての澄みきった空気。
燦々と降り注ぐ陽光は、次第に肌を刺すような痛い光に変化してゆく。
今年もまた、暑い熱いあの季節の到来である。
凛子は、自転車の右足のペダルをゆっくりと、そして力強く踏み出していった。
かつて仲間達が集い、情熱を燃やした、あの街に向かって。
生涯忘れることのない時代がある。
彼女等との出会い。
共に、生き生きと過ごした日々。
そして、真夏の陽射のように、焦げ付くほどの痛みを覚えた、あの夏の出来事。
眩し過ぎて、本当に大切なものを見失ってしまった、あの頃の私達……。
[第一章へ続く]